『自動車亭日乗』No.10
2024年7月の印象に残った4台 金子浩久

趣味人コラム
2024.08.15
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・ホンダ フリード

 フルモデルチェンジしたホンダのコンパクトミニバン。先代をイメージしたエクステリアデザインが施されているが、フリードの新型であることは見た人に受け入れられるだろう。

 スタンダードの「AIR」グレードの外観が凡庸に見えてしまうのに較べ、グリルやフェンダーまわりにSUVっぽい装飾が加えられた「CROSSTAR」の方がメリハリが効いて、他車との見分けが付くだろう。

 双方のハイブリッド版を1時間ずつ、横浜の一般道と首都高速で試乗した。どちらでも気になってしまったのは、エンジンが回転している時のうなり音の大きさと、掛かるタイミングを把握しづらいことだった。

 ホンダ独自の「e:HEV」というハイブリッドシステムは登場した時はライバルに優っている点が多かったが、今となってはライバルたちの進捗が著しい。それはパワートレイン以外にも現れていた。運転支援機能のLKAS(レーンキーピングアシスト)は、効く時と効かない時の違いがわかりにくく、効いても効き方がモッサリしている。この点は、以前にホンダの別のクルマでも感じた通りで変わっていなかった。

 また、音声入力でカーナビの目的地設定やラジオの選局、エアコンの温度設定などを行おうとしたところ、「運転中は安全のために音声入力を使うことができません」とセンターモニターパネルに表示が現れた。

 では、何のための音声入力なのだろうか?

安全のためにパネルなりスイッチを指で触って操作する代わりに音声で操作するわけなのだから、これでは意味がないではないか?

 CarPlayやスマートフォンのBluetooth接続などもいろいろ試したが、一度もできず。

他にも不満点や疑問点があったので、もう一度乗ってみたいと思う。他社がやっていないことにトライしているとか、発想が新しいとか、ホンダらしい魅力を見付けることができなかった。

・アウディ TTクーペ

 7月の「10年10万kmストーリー」は、新車から19年15万2000km乗り続けられているアウディTTクーペ(2004年)。オーナーさんはTTクーペのスタイリングと走りっぷりの良さが乗り続けている理由だと語っていたが、僕も同感だ。加えて、インテリアの凝った造形と優れたスペースユーティリティもTTクーペの長所だ。だから、僕もプジョー505GTiの次としてTTクーペを購入しようかと真剣に検討したことがあった。

 特に惹かれたのが、4輪駆動システム「Quattro」が採用されていることと、リアシートを前方に倒すとトランクスペースが拡大し、大きなテールゲートからの荷物の出し入れがしやすいことだった。カッコと走りだけでなく、実は実用性も高いのだ。スタッドレスタイヤに履き替えてルーフキャリアを装着すれば、スキーにも通える万能性までも備えていた。

 でも、TTクーペを買うことはなかった。その代わりに買ったクルマとその理由も、記事に書きましたので、ぜひ、読んでみてください。

・シトロエン DS

 シトロエンDSが登場する映画は、実にたくさんある。DSは1955年から75年まで20年間も造られ続け、卓越した快適性や操縦性などから多くの人々から愛され、当時のフランスを代表するクルマとなっていた。だから、その頃のフランスやヨーロッパを舞台とした映画では必ずどこかに登場していたほどポピュラーな存在だった。

 
 その中でも僕が好きなのは「サムライ」(Le Samourai)。ジャンピエール・メルヴィル監督による1967年のフランス・イタリア映画で、アラン・ドロンがパリの殺し屋を演じている。

 その「サムライ」が過日7月29日にNHK/BSで放映された。今では、各種のサブスクリプションでも観ることができる。

 冒頭、パリの街に路上駐車しているDSをアラン・ドロンが盗むシーンにシビれる。顔を動かさず緊張感を眼玉だけで表現するドロンもさすがだけれども、カメラワークが素晴らしい。決してクルマにストーリーの一部を荷担させる作品ではないのだけれども、DSの特徴が良く表現されている。

 
 ジャンルが違うので比較しては酷かもしれないけれども、最近、飛行機で観たある日本映画のヒドさを思い出した。男女の俳優たちは“熱演”を勘違いしていて、セリフをドナるばかりの一本調子。強弱、緩急がなく、あまりのやかましさに15分で観るのを止めてしまった。海外の賞も獲った作品だけれども、監督をはじめとする製作陣にも責任がある。賞もアテにならない。

 孤独であったり、ひと癖あったりする主人公が大都市を舞台に、もがきながらクルマで東奔西走するという点でのちの映画に大きな影響を及ぼしていることは間違いない。ロケシーンも多いので、1960年代中盤に実際にパリを走っていたクルマがたくさん映っているので旧車好きにも勧めたい。

・ミニクーパー

 発売中の『ENGINE』誌9/10月号の巻頭企画「2024年版 ENGINE HOT100」では、44名のモータージャーナリストと編集部員たちが、それぞれ“HOTだ”と考える20台に傾斜配点し、合計点で1位から100位までを決めている。

 
 僕が1位に投じたのが5月にバルセロナで乗った新型ミニクーパー。2位以下が、トヨタ・ランドクルーザー250、BYD SEAL、ランドローバー・ディフェンダー、BMW・iX2、アバルト500e、フォルクスワーゲン・ゴルフ、ランドローバー・レンジローバー、メルセデスベンツ・EQS SUV、キャデラック・エスカレード、BMW・iX、アウディ・eトロンGT、シトロエン・C4、ジャガー・Fタイプ、ベントレー・ベンテイガ、テスラ・モデル3、マツダ・ロードスター、レクサスLC、日産サクラ、日産エクストレイル。

 記事には1台ずつのお勧めポイントと「なぜこれら20台を選んだのか?」についても書いたので、ぜひ読んでみてください。

プロフィール

Hirohisa Kaneko【金子 浩久】
 

モータリングライター。
クルマとクルマを取り巻く人々や出来ごとについての取材執筆を行なっている。
最新刊は『クラシックカー屋一代記』。

https://www.kaneko-hirohisa.com

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