『自動車亭日乗』No.13 2024年10月の印象に残った6台 金子浩久

趣味人コラム
2024.11.15
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

・マツダ CX-80

 CX-80はマツダの大型SUV。2022年に発売されたCX-60が2列5人乗りだったのに対して、CX-80は3列7人乗り。

 似たようなかたちとサイズで以前はCX-5が造られていたが、CX-5が前輪駆動であるのに対して、CX-60とCX-80はプラットフォームから一新して後輪駆動を採用している。


 マツダの狙いとしては、後輪駆動化と併せて各部分を見直すことによってプレミアムSUVとして売り出したいとのことだ。気持ちは良くわかるが、どの程度の“プレミアム”を目指すのかがわかりにくかった。

 走りの上質化を謳っていたが、舗装の良い路面ではそれは認められたものの、荒れた舗装やつなぎ目などイレギュラーな場面ではショックやノイズなどを抑えきれず馬脚を露わにしていたのが惜しかった。

・スズキ ワゴンR CBG車

 ジャパンモビリティショー・ビズウィーク2024に展示されていたクルマの中で印象に残ったのは、インドで造られているスズキ・ワゴンRのCNG車。

 天然ガス(CNG)を燃料として走るクルマとして造られているが、インドのユーザーが天然ガスの代わりに牛糞ガス(CBG)を入れてみたら問題なく走ってトラブルもなかった。

 CBGはインド社会に普及していて、生活のさまざまな用途に用いられ、また牛はインドで聖なる存在だ。牛糞ガスで機械的な故障も発生していないことなどを受けて、スズキ本体が乗り出すことに。現在、グジャラート州に4つのCBGプラントを建設中で、今後、そこで製造されたCBGと有機肥料の製造販売を行なっていくことになった。
 
メーカーが研究開発して推進してきたプロジェクトではなく、ユーザーの応用使用例を後追いしてプラント建設にまでいたった。
 カーボンニュートラル社会の実現や農村経済の活性化、エネルギー自給率向上、有機肥料の促進などスズキだけでなく広くインドの社会全体にとってメリットを生み出すはずだ。

 
地域の特性や事情を上手くビジネスに結び付けているスズキらしい取り組みだ。真にグローバルとはこのことで、素晴らしい。

・MINI Cooper

 モデルチェンジした新型MINI Cooperには、これまで通りエンジンを積んだ車種に新たにEV(電気自動車)が加わった。

 エンジン版は2車種ある。1.5リッター3気筒エンジンを搭載した「C」と、2.0リッター4気筒を搭載した「S」。

 EV版も2車種。モーターの出力とバッテリーの大小が違う「E」と「SE」。

 CとSを都内の短距離で乗り較べてみたが、エンジンの違いは明瞭だった。2.0リッターのパワーは強く、4気筒の排気音は勇ましい。従来型の魅力だ。

 それに対してEVであるSEは、加速の静けさ、滑らかさ、力強さなどは強力なモーターならではの魅力を持っている。当たり前だが、その加速感や走りっぷりはエンジン版とはまったく違う。バッテリーの重量ゆえ、SEの方が重厚感があり、上質でもある。

 その他の、日常的に使う機能や操作性などは変わらない。エンジン版とEVで迷う人はいないと思われるが、どちらを選んでも最新の運転支援機能やスマートフォンを介さないクルマ独自のOSとSIMカードによる常時インターネット接続などによる機能が豊富なことは変わらず、新型MINI Cooperの魅力となっている。
 
オプションを含まない車両本体価格(消費税込)は、Cが396万円、Sが465万円、Eが463万円、SEが531万円。EがSよりも2万円安く、同じ車名の中でエンジン車よりも安いEVが出現という珍しい例となっている。

・シトロエン C5ツアラー

 今月の「10年10万kmストーリー」は、13年21万5000km乗り続けられているシトロエンC5ツアラー(2010年)。ツアラーというのは、セダンのC5に対するステーションワゴンの呼び名だ。シトロエンの別ブランドである「DS」も持っていて、夫婦で2台のシトロエンを乗り分けていた。

・アストンマーティン ヴァンキッシュ

 アストンマーティンのトップモデル「ヴァンキッシュ」の3代目が登場。イタリアのサルディニア島で乗ってきた。V型12気筒エンジンをフロントに搭載し、後輪を駆動するというトラディショナルな構成だ。モーターを付け加えたハイブリッドやEV(電気自動車)ではない、純然たる内燃機関車であるところも大きな特徴となっている。

 新型ヴァンキッシュのV型12気筒エンジンは新開発されたもので、排気量5.2リッター、ツインターボ、最高出力835馬力、最大トルク1000Nm。性能は0-96km/h加速3.2秒、最高速度345km/hと並外れている。

 とは言っても荒々しいところや粗暴なところは一切ない。乗り心地は上質で、快適そのものだった。最新のコネクテッド機能や運転支援機能なども装備されている。
 

 内外装や装備などは細かなものまでオーダーが可能だから、“自分だけの一台”を誂えることもできる。製造に手間と時間を要するので、年間1000台以下の限定生産。日本での販売価格も約5000万円と決定済み。もちろんこれはベースプライス。ときどき、「生涯で最後のクルマは何を選ぶべきだろうか?」という相談を受けるが、新型ヴァンキッシュだったら誰にも文句はないだろう。

・アウディ A2

 ミュンヘン中心部を散歩していたら、アウディ A2が2台路上駐車しているところに遭遇した。

 A2は当時の大型車A8と同じように専用のアルミスペースフレームボディを採用して軽量化を果たし、1.2リッター直噴ディーゼルエンジンやアイドリングストップなどを搭載して低燃費を実現したりした意欲作だった。

 しかし、販売が振るわずに2000年代初めに生産が終わり2代目は造られなかったから、今となっては希少な存在だ。日本には正規輸入されなかったので、ヨーロッパでA2を見掛けるとつい写真を撮ってしまう。

 A2の新しさとそこから漂ってくる新時代を切り開こうとするアウディの意欲に僕は大いに共感していたので、正規輸入されていたら間違いなく購入していただろう。

プロフィール

Hirohisa Kaneko【金子 浩久】
 

モータリングライター。
クルマとクルマを取り巻く人々や出来ごとについての取材執筆を行なっている。
最新刊は『クラシックカー屋一代記』。

https://www.kaneko-hirohisa.com

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE