『自動車亭日乗』No2 ”2023年11月の印象に残った4台” 金子浩久

趣味人コラム
2023.12.12
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・フォードGT40

成田からイスタンブールへ向かう機内で、映画「フォードvsフェラーリ」を再見した。1966年のル・マン24時間レースを題材にした、マット・デイモンとクリスチャン・ベールが主演を務めた2019年のアメリカ映画。

実在したレーシングドライバーのキャロル・シェルビーをマット・デイモンが演じており、抑えた演技が素晴らしい。その時の実際のシェルビーを知らないけれども、デイモンは気負うことなく活き活きとシェルビーを演じている。

ベールが乗るフォードGT40は、それこそル・マンの博物館やクラシックカーイベントなどで何度も対面しているが、いつもその小ささに驚かされている。巨躯のアメリカ人ドライバーたちが、よくもこんなにコンパクトなドライバーズシートに収まって、24時間も走り続けられたものだ。レプリカが多数あるのも、今でもそれだけ慕われている証拠なのだろう。

▲画像のゼッケン2と6がフォードGT40。2009年のアメリカ・ペブルビーチコンクルールデレガンスにて。

・ルノー12

トルコ旅行中に何十台と現役で乗られている姿を目にしたのがルノーの12。1970年代から80年代にかけて、フランスだけでなく、さまざまな国でノックダウン生産されていた。トルコでもオヤックという企業で造られていたから、今でも健気に走っていたのだろう。

こちらがバスや列車など遠くからでも12を見付けられたのは、その独特のカタチによるところが大きい。3ボックスセダン型で、フロントガラスの傾き具合に比べて、リアガラスの傾きが急だ。それに合わせるかのように、エンジンフードが長いのに比較して、トランクフードがとても短く見える。実際の寸法はそれほど極端ではないのだけれども、空中からルーフの後端をツマんだような造形に見える。ちょっと他に似ている車が思い浮かばない。

ちなみに、日本では1台も見たことがない。新車時に輸入して売られていなかったし、現在でも、わざわざ輸入されるほどの理由もない。いちいち検証しないけれども、そういうクルマも少なくないはずだ。

・マセラティ グラントゥーリズモと3500GT

11月21日に築地本願寺で行われたマセラティの新型「グラントゥーリズモ」の発表会。

一見すると先代モデルと違いが乏しいようにも見えるが、大きく変わった。3.0リッターV6エンジンを搭載し、チューンの異なる「モデナ」と「トロフェオ」に加え、300kWのモーターを3基搭載するBEV(電気自動車)の「フォルゴーレ」も用意されている。床下にバッテリーを敷き詰める昨今の常識的なBEVの仕立てでは、グラントゥーリズモのように低く構えることとどう両立させるかが鍵となるが、センタートンネル内に収めることで解決したと説明されていた。早く乗ってみたい。

会場に展示されていたのは、往年の「3500GT」。今はもう跡形もない「ドライブイン麻布」の経営者が1960年代にシルバーの3500GTに乗っていたと知人から教わったことを思い出した。ドライブイン麻布のことをもっと知りたい。場所は、今をときめく麻布台ヒルズの向かいだった。

・フォルクスワーゲン ゴルフGTI

11月末の御殿場で行われたフォルクスワーゲンのメディアイベントで乗った1台が、ゴルフGTI。この半年は、フォルクスワーゲンのBEV(電気自動車)「ID.4」に乗る機会が連続していて、またゴルフGTIに乗るのも久しぶりだったので、とても新鮮だった。

ID.4はリアにモーターを搭載し、後輪を駆動するBEV。対するゴルフGTIは、フロントにエンジンを横向きに置き、前輪を駆動する。エンジンとモーターというパワートレインの違い以上に、パワートレインの搭載位置と駆動輪の違いによる走りっぷりが大きく違っている。フォルクスワーゲンの主力がBEVとなっていくのならば、大きな変革となるだろう。

2024年に誕生50周年を迎えるゴルフも、また、それまでの空冷エンジンをリアに搭載し、後輪を駆動していたタイプ1ビートルからメカニズムは何も引き継がず、革命的な変革をもたらしていた。そして、いま眼の前に同じような状況が現出しているのだ。ゴルフシリーズは2024年にヨーロッパでマイナーチェンジが施されるが、次の世代が登場するのか?

それとも、かつてタイプ1ビートルに引導を渡したようにID.4を筆頭とするBEVと入れ替わってしまうのだろうか?

プロフィール

Hirohisa Kaneko【金子 浩久】
 

モータリングライター。
クルマとクルマを取り巻く人々や出来ごとについての取材執筆を行なっている。
最新刊は『クラシックカー屋一代記』。

https://www.kaneko-hirohisa.com

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