『水平線に恋をして』 第七話 山崎憲治

大人の逸品エッセイ
2024.10.28
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世界で一番美しい帆船AMERIGO VESPUCCI「アメリゴ・ヴェスプッチ号」が初めて日本にやってきた。8月25日(日)、東京港の東京国際クルーズターミナルに初入港。翌26日(月)から30日(金)まで5日間限定でこの国際クルーズターミナルでイタリアの歴史文化を無料で体験できる「ヴィラッジオ・イタリア」が開催された。

食とワイン、モダンアート、エンタメ、デザイン、モード、最新テクノロジー、トレンドビジネス、大阪万博イタリア館のデモ展示と国際クルーズターミナルはイタリアになった。AMERIGO VESPUCCI「アメリゴ・ヴェスプッチ号」がみせてくれたものとは。プレジャーボート建造国のリーデイングを果たすのはなんといってもイタリアだ。フェレッティグループ、アジムット・ベネッティグループ、サンロレンッオ、、、、伝統とモダンを融合させその先を見据えた最新のラグジュアリートレンドを生み出し発進している。クルマでもフェラーリ、マセラティ、ランボルギーニ、、、。AMERIGO VESPUCCI「アメリゴ・ヴェスプッチ号」はいわば時空を超えた美神の王国イタリアのシンボルといえる。

東京国際ターミナルに停泊する「アメリゴ・ヴェスプッチ号」
船名のモニュメントは圧巻
船体を一目見ようと多くの人が来場した
真夏の太陽に照らされた美しい船体

近代的な東京国際ターミナルの岸壁に接岸しているアメリゴ・ヴェスプッチ号。圧巻の存在感に身震いを覚えるほどだ。岸壁に置かれた白いAMERIGO VESPUCCIのインデックス、百メートルに渡るブルーの絨毯。その先に圧倒的な存在感を見せる3本マストの帆船がいる。イタリア3色旗のセンターに海洋都市国家ヴェネツィア、ジェノバ、アマルフィ、ピザの紋章と王冠が描かれるイタリア軍艦旗がはためいている。

その船体を見上げながら絨毯を歩く。クラシカルなウッドのギャングウエイがアッパーデッキから降りている。ブラックハルに2条の大砲列を表すホワイトラインがりりしく取り巻き、アッパーデッキや上部構造物、船尾楼のウッディなゴールドのきらめき、屹立するマスト、張り出す何本もの帆桁ヤード、マストのステイトップ、無数のロープ索具、リギンの美しさ。見上げると頭上で錯綜する動索、静索の数、気が付くとその秩序正しさの見せる美に感動を覚えている。岸壁に彫刻家JAGOの「ラ・ダビデ」像がたたずんでいる。プープデッキの脇からもう一つのギャングウエイが降りている。

船首側に歩く。サイドのゴールドのアラビッシュ模様とバウスプリットの伸びやかな造形がなんとも妖しく美しい。上部に探検家アメリゴ・ヴェスプッチの金色の像フィギュア・ヘッドがその先を見据えるように位置している。乗船はウエルカムセレモニーが終わった後になるという。セレモニーを楽しもうじゃないか。

イタリア海軍バンドによる演奏、両国国家斉唱、駐日イタリア大使Gianluigi BENEDETTI大使、オープニングセレモニーにはイタリア共和国国防相Guido Crosetto大臣、アメリゴ・ヴェスプッチ号の船長Giuseppe lai大尉、日本からは防衛大臣政務官三宅伸吾政務官らが登壇、テープカットが行われた。

イタリア海軍バンドによる素晴らしい演奏
イタリア国防相も来日した
防衛大臣政務官の三宅信吾政務官
テープカットには錚々たる顔ぶれが並ぶ

イタリア海軍の現役として最古の軍艦、航海訓練艦でもある帆船「AMERIGO VESPUCCI」の誕生は93年前、ムッソリーニ政権時代の1931年2月22日のこと。カンパニア州ナポリ南東25キロのカステッランマーレ・ディ・スタービアの王立造船所においてフランチェスコ・ロトゥンディ中佐の設計により1930年5月12日に造船起工され、その9か月後に完成し進水に成功している。その年の6月にはイタリア海軍の訓練艦として就役し、7月には北ヨーロッパを通過する最初の訓練航海に出発している。船名は新大陸「アメリカ」を発見したとされるイタリア・フレンツェ出身の探検家AMERIGO VESPUCCIアメリゴ・ヴェスプッチにちなんでいる。バウスプリットのフィギュア・ヘッドもアメリゴ・ヴェスプッチの金箔の像だ。船型はフォアマスト、メインマスト、ミズンマストの3本マストフルシップ型帆船。19世紀前半に見られたフリゲート艦型の船体を持つ練習艦船として貴重な存在でもある。船首から船尾までアッパーデッキ、メインデッキ、ロアデッキの3層のデッキに船首楼、船尾楼を持つ構造だ。船体ハルはリベット打ちの鋼板製。ブラックハルに大砲列甲板を象徴する2本の白い帯、船首バウスプリットの金箔フィギュア・ヘッド、船尾の金泊のアラベスク模様と船名AMERIGO VESPUCCIアメリゴ・ヴェスプッチも金泊のきらめき。優雅さと荘厳なインパクトを与えている。

諸元を記してみる。バウスプリット18m、フォアマスト50m、メインマスト54m、ミズンマスト43m。24枚の帆面積2,650㎡。索具36㎞。緊急用搭載船舶/モーターボート2艇、モーターランチ2艇、モーターピンネース2艇、帆走手漕ぎ救命ボート4艇、帆走手漕ぎホエールボート1艇。全長82m(船体)101m(全体)全幅15.5m。喫水7.3m。排水量4,200t。速度帆走時15ノット、モーター駆動時11ノット。2000年以降の近代化改装で4機のディーゼル発電機と1機の電気モーターの組み合わせによる電気推進システムを採用。風という自然エネルギーと電気モーターのハイブリッド推進、まさに究極のグリーンエナジー船なのだ。マストへのLED照明、衛星通信システム等、最新の航海システムを積極的に採用している。

このフネのモットーはレオナルド・ダビンチの名言にインスパイアされた「始める者ではなく、粘り強く続ける者」であれ。任務を最後まで遂行することの重要性を強調している。

誕生以来、主にリヴォルノのイタリア海軍士官学校やフランチェスコ・モロシーニ軍学校の学生、他のイタリア海軍訓練機関の士官候補生、およびレガ・ナヴァーレ、セイルトレーニング・アソシエーション・イタリアなどの団体からの若い新兵の訓練にも使用されている。過去30年間、自然環境と海洋生態系の保護活動、ユニセフ親善大使として、WWF、マレヴィーヴォなどの団体と定期的に協力しながら地球環境保全の重要性を次世代に伝えていく活動など世界の海事外交任務の継続的な実行を重ね、「アメリゴ・ヴェスプッチ号」は「浮かぶイタリア大使館」という高い評価を得ている。

乗組員は15名の将校、30名の下士官、34名の軍曹、185名の上等兵と兵を含む264名の軍人で構成されている。訓練キャンペーン中はリヴォルノ海軍兵学校から約100名の候補生と支援スタッフが加わり乗組員は約400名になる。

通常は主に地中海や北ヨーロッパ、大西洋に限られている。今回は20か月にわたる世界一周航海を行っている。2023年7月1日にイタリア・ジェノバを出航し、地中海から大西洋に、ダカール(セネガル)、リオデジャネイロ(ブラジル)、ロスアンジェルス(米国)、東京(日本)、マニラ(フィリピン)、ダーウィン(オーストラリア)、シンガポール、ムンバイ(インド)、ジェッダ(サウジアラビア)、等31か国36の寄港地をめぐり、2025年2月にラ・スペッアに戻る予定。

8月25日は17か国22か所目となる日本に初めて寄港、翌26日(月)オープニングセレモニーが開催された。グイド・クロゼット国防相の強い意向として寄港するすべての国にてイタリア文化と経済のプロモーションが組み合わされた。東京では5日間にわたりアメリゴ・ヴェスプッチ号の一般公開だけではなく「ヴィラッジオ・イタリア」と銘打ってイタリアの文化がお披露目された。イベントは「アメリゴ・ヴェスプッチ号」の乗船体験、毎日日没後の降旗パフォーマンス、イタリアのグルメ、ワイン、ヴェネツィア国際映画祭にキューレーションされた映画の上映、オペラ歌手のステージetc。最先端ビジネス・テクノロジー、デザインにまつわる展示などイタリアの今を体験できた。その例は、イタリアオペラの巨匠マエストロ、リッカルド・ムーティ率いる弦楽四重奏、ミラノスカラ音楽院による演奏会。映画はヴェネツィア国際映画祭キューレーションされたエドアルド・デ・アンジェリス監督の「潜水艦コマンダンテ誇り高き決断」ミカエラ・ラマッツォツティ監督「Happiness!」などが上映された。

アートはアーチスト彫刻家JAGOジャゴによるミケランジェロのラ・ダビデを再解釈した「ラ・ダビデ」の展示が岸壁の乗降ギャングウエイに沿うように置かれた。

整列したイタリア軍の士官候補兵たち
彫刻が美しい

ギャングウエイを登り乗船する。整列した制服の士官候補兵たちが敬礼をして迎えてくれる。ホワイトパンツ、濃紺ジャケット、士官制帽きりりとした佇まいに思わず身がしまる。チークデッキ、ウッドの艤装、秩序正しく配列されたロープ類。共同作業の象徴ブラック、赤、ゴールド、美しい色調の手動キャプスタン。浮彫彫刻の施されたビット。整然とした木製ガンロッカー、すべての構造物が重厚に時を刻んだ審美を漂わせている。パイロットハウスの中に4連のラット、ステアリングホイールが見える。チーヤートテーブルの前には最新のGPSプロッター、新旧の得も言えぬ調和。威厳が保たれる重厚な趣のキャビン。ヘルム前方クオーターデッキに吊られたタイム・ベル。八点鐘が鳴る。バウスプリットのその先に無限の海原が待っている。ずっと若ければ、もしイタリアに生まれていたならば、このアメリゴ・ヴェスプッチ号でロアデッキのハンモックで眠る甲板員になっても、世界の海を渡る夢を見たいと思った。

プロフィール

Kenji Yamazaki【山崎憲治】
 

クルマとプレジャーボートに対する情熱と日本人で最も多くの大型プレジャーボートのテスト経験者としての評価が高い、
海外ボートショーでも知られたジャーナリストである。

2008から「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」に携わり、現在は「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。

2000年から、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」実行委員を務め、現在は同組織で評議委員。

また月刊PerfectBOAT誌顧問。

主な著作は『日本の外車生活』(双葉社)、『新・ニッポンの外車生活』(ネコ・パブリッシング)など。

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