フランスBENETEAUグループのフライブリッジモーターヨット「PRESTIGEシリーズ」に新たなジャンルとして双胴、カタマランのモーターヨットが加わり早速日本国内に輸入された。YAMAHA発動機が総輸入元を務めるPRESTIGE。2022年Cannes yachting Festivalでワールドプレミアされた話題のモデル「PRESTIGE M48」だ。PRESTIGEシリーズは40フィートから70フィートまでプレミアムな単胴、モノハルのサロンクルーザーブランドとして確実にその名声を高めてきた。近年の新たな世界トレンドとして、双胴、カタマラン艇のパワーボートマーケットの成熟から満を持して登場したのがこのⅯ48だ。カタマランの船体設計はフランスのボートデザイナーPhilippe Briandと長くPRESTIGEのデザインを手掛けているイタリア人デザイナーCamilo Garroniがコラボして誕生した。早速その魅力を体験してみよう。

試乗の場所は大阪湾、新西宮ヨットハーバー。天気晴朗、気温10度。晴れているが時折北風卓越のウインターコンディション。六甲山の山並みが凛として清廉な趣をみせている。
マリーナのメインポンツーンに舫われたⅯ48。全長14.79m、全幅6m。双胴のバウは垂直のバーチカルハル、その両舷ハル先端にリップを持つチャインが慄然としている。カタマラン中央部の波切の深さ、舷高は高い印象だ。ホワイトハルにブラックアウトされたクリスタルな舷窓、サイドウインドウのアローライン、後部コクピットのあでやかな広がり。6mに渡る両舷の固定式トランサムデッキを繋ぐ中央には、電動で上下動されるプラットフォームがある。ポンツーンから見上げるだけでもときめきを感じる存在感がある。まるで浮かぶ別荘、フローティングヴィラの趣が漂ってくる。トランサムデッキから乗り込んでみる。電動プラットフォームを下げるとトランサムに設けられたシートイガレージが現れる。マリタイムアクティビティのベース基地になる。もちろんフルフラットにすればフルビームのアクティビティスペース、ビーチクラブになる。走行時には最上部に上げておけばいい。両舷どちらからでも4ステップでアクセス可能なアフトデッキたるコクピットへ。フライブリッジの後端がひさし、イーブスとなり両舷の端にはそれぞれブラックアウトされた柱が支え、チークデッキのオープンエアラウンジが広がる。2脚のテーブルを取り囲むようにソファがセットされ8名までエンジョイできる。左舷側のフライブリッジラダーの袂には着岸時に有効なジョイスティックとバウスラスターレバーのサードステーションが潜んでいる。ラダー下にはウエットバーにチェストが用意され、左舷にはトランサムドアがあり岸壁での乗り降りに有効な設えが施されている。両舷の幅広いキャットウエイを通りフォアデッキに。こちらもサンタンベッドにオープンテラスのラウンジソファがグランピングゾーンのような楽しさを演出している。


360度採光豊かな明るい22㎡の広々としたメインサロンに入る。サロンの右舷にはギャレーが用意され、跳ね上げ式ウインドウを上げ、スライド式サロンドアを開けるとアフトデッキとサロンが一体化する。そこにはメガヨット並みのサロン空間が現れる。サロン左舷後端にはロアフロアのゲストルームへのアクセス路、コンパニオンウエイがある。右舷の大型冷蔵庫に並んでウインドウ下からコの字にレイアウトされたフル装備のキッチン、ギャレーが展開する。そのカウンタートップはブラックの大理石セラミック。通路側カウンターの壁面はウォルナットのアートフルな綾縞模様のジオメトリックパターン。フロアは天然艶消しのライトオーク材。ギャレー前方には3ステップ上がり右舷通路、キャットウオークへのスライドウインドウがある。実に機能的レイアウトだ。その前方にメイン操船席ヘルムステーションが用意される。1脚のキャプテンシートの前方、ステアリングホイール左右にGPS&マルチモニターGARMIN16インチMFDマルチファンクションディスプレイが2面並び、右舷サイドデスクにボルボⅮ4‐320HP2機のコントローラー、ジョイスティック、バウスラスタースティックがセットされる。正面メイングラスに左右コーナーグラスの3面で構成されるフロントスクリーン、ラップアラウンドした見通しの良い視界が約束される。リラクゼーションスペースはサロン前方左舷に設えられる黒大理石セラミックのテーブルにゆったりとしたファブリックのコの字ソファが作り出す。その前方にチャートテーブルを兼ねたストレージがある。柔らかな色調のトーンコントロールが施されたエレガントなサロンがプレシャスなフローティングヴィラの趣を漂わせている。


メインヘルム脇サロンの中央前方にロアデッキへのコンパニオンウエイがある。降りるとフルビームのオーナーズマスターステートルームが展開される。その広さは幅5m、18㎡という驚異的な広さを誇る。ジオメタリックパターンのベッドボードに200㎝×180㎝のアイランドタイプのキングサイズベッド、リラクゼーションソファ、ドレッサー、クローゼット、数日に渡るロングクルージングも視野に入った設えが嬉しい。シービューのパノラマ舷窓も開放感あふれリキュスな気品が漂う。左舷側にレインシャワーのバスルーム、ヘーゼルナッツ模様のコリアン製カウンタートップがエレガントな雰囲気を醸し出している。右舷にはトイレ、ヘッドコンパートメントが用意される。
サロンからそれぞれ独立してアクセスできる二つのステートルーム。このフネの特徴的なレイアウトだ。右舷に専用シャワ&ヘッドコンパートメントを持つVIPステート、200㎝×160㎝のクイーンサイズベッドが用意されている。左舷サイドは2ベッドのゲストルームが用意される。こちらはサロンからのアクセス含めてヘッドスペースは共有される。ステートルームにはMonalisonブランドのオーガニック素材のカスタムベッドやリネンのオプションも用意される。

さあフライブリッジへ。アフトコクピット左舷から45度のラダーでアクセス。広々としたオープンラウンジが広がる。左舷前方にヘルムステーションとパイロットシートに付帯するキャビネットがある。BBQグリル、ウエットバー、製氷機、冷蔵庫のキャビネット。ヘルムはスリースポークのステアリング、コンソールにはGARMIN16インチMFDモニターが2面並びその右にボルボエンジンのモニターが並ぶ。コンソールデスクにはGARMINオートクルーズ、コンパス、エンジンコントローラー、ジョイスティック、バウスラスタースティックが位置している。ヘルム右には8名のU字ソファにチークのテーブル、その背後に広々としたサンタンベッドが用意される。サンシェードとしてフライブリッジのTトップが頼もしい。オープンエアのファニチュア類はRODAのアウトドアコレクションからのものを採用。太陽と海の爽快感を心から楽しむスペースが展開されている。設えのすべてを見て、このカタマランM48はオーナーキャプテンのファミリーユースに最適な存在と感じいっていた。
「フネの上の豊かな時間、プライベートな島で過ごすような夢を実現する。高い巡航速度を求めるのではなく快適に海の上の時間の移ろいを楽しむ為に」とマーケティングマネージャーRosalie le Gall氏。


長い夏を思い出させる夏の名残の雲が陰ると冷ややかな冬の風と光が舞い始める。11時、晴れ気温13度。北風6m。新西宮ヨットハーバーを出航し夢洲の西沖海域に。オーナーキャプテンの気分でフライブリッジでの操船。船速5.4ノット、ボルボⅮ4‐320HP2機は1200rpmを示している。双胴のハルのドライブシステムはⅤドライブ。両舷のコントローラーを押し込んでいく。ゆっくりとスムーズな加速、1500rpm6ノット、2300rpm10.0ノット。北風は初冬の香りを乗せてくる。六甲の山並みを右手に見ながら西に向かう。ローリングもピッチングもないフラットな走行が続く。軽いステアリングを切り込んでゆく。インサイドバンクなどないまま水平での軽快な回頭を見せる。双胴の幅ビーム6m、スタビライザーやジャイロはいらない。快適な走行のままアクセルコントローラーをMaxに。この日のシートライアルでのトップスピードは時折襲うはぐれ波によるゆるやかなピッチングを伴いながら19ノット3740rpm、充分な速度だ。18ノットでのレンジは250nm、8ノットでは600マイルの航続距離を約束する。充分な深さを持つフロントのエアダムスクリーンは実に効果的、かぶっていたキャップを飛ばすことなく、スプレーを浴びることも皆無だった。モノハルより20%接水面積が低減され、低速走行時の燃費に効果的な結果をもたらしている。ハルはインフュージョン/FRP、劣化対応オズモシスバリア施工と抜かりない。ビーム6mは同クラスのセーリングカタマランや他の動力カタマランと比べてやや細身、国内のバース事情にも対応しやすい。
さあ、Ⅿ48で瀬戸内海のアイランドホッピングへ。ヘディングは夢のパラダイス、オートパイロットをセットし大海原に一条の航跡を描きながらフローティングヴィラでゆったり至福の快適クルージングを楽しもう。

プロフィール
Kenji Yamazaki【山崎憲治】
クルマとプレジャーボートに対する情熱と日本人で最も多くの大型プレジャーボートのテスト経験者としての評価が高い、
海外ボートショーでも知られたジャーナリストである。
2008から「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」に携わり、現在は「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。
2000年から、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」実行委員を務め、現在は同組織で評議委員。
また月刊PerfectBOAT誌顧問。
主な著作は『日本の外車生活』(双葉社)、『新・ニッポンの外車生活』(ネコ・パブリッシング)など。