・MINIクーパー
新型MINIクーパーが発表された。BMWが手掛けるようになってからの4代目。3ドアの「クーパー」は10年ぶりのフルモデルチェンジになる。
画像で見ても、MINIならではの特徴を維持しながら、フロントガラスの傾斜角度やピラーとガラス面とのつなぎ目の滑らかさ、テールライトユニットの形状などで4代目を表そうとしているのがわかる。
インテリアは特徴的で、お盆のように大きく丸いセンターディスプレイが眼を惹く。ステアリングホイールの奥にあったメーターはなくなり、運転に必要なすべての情報はヘッドアップディスプレイに映し出すことが可能だ。
また、車内に投影される7パターンの光のグラフィックとアンビエント・イルミネーション、ドライビング・サウンドなどを好み通りに設定できる。
これまでならば、こうした装備は“ガジェット”のひと言で片付けられていたが、「車内にいる時間をどう過ごすか?」が新たな命題となり、昨今の運転自動化の進行とともにクルマ側で解決することが求められ始めてきている。そのことに自覚的に触手を伸ばし始めてきているのは、まだ大型の高級車に限られているが、そういうところはさすがにMINIの動きは早い。
イギリスのローバーが1959年から2000年まで造り続けていたオリジナルのミニが日本と世界のクルマと社会に与えた多大な影響について取材し、BMWがどんなMINIを送り出そうとしているのかを『ニッポン・ミニ・ストーリー』(小学館)という本に書いたので、ぜひ読んでみて欲しい。ミニからMINIへ移り変わる同時進行ドキュメントを『ラピタ』誌に連載し、1冊にまとめたものだ。
4代目となる新型MINIは、まず3ドアのクーパーからリリースされる。エンジン版の「クーパーC」が396万円(以下、消費税込)と「クーパーS」が465万円。EV版の「クーパーE」が463万円と「クーパーSE」が531万円。
走りがどれぐらい進化したのかと併せて、走り以外の部分でどれだけ革新が図られているのか?
新型MINIクーパーには、先代までにはなかった何かが備わっているような気がしてならない。
・ジャガーI-PACE
2018年にジャガーは初めてのEV(電気自動車)である「I-PACE」を発表していた。他メーカーよりも、だいぶ早かった。改めて、富士スピードウェイのショートコースで試乗する機会があった。
久しぶりのI-PACEの速さや滑らかさは変わっていなかった。サーキットならではの新発見も二つあった。一つは、コーナリングや加減速の限界域での電子制御のナチュラルな働きぶり。
エンジン車の場合は、“エンジンという機械の集合体”(アナログ)を電子で制御(デジタル)するので、どうしても遅れや唐突感が出てしまう。EVの場合には、それがない。
二つ目は、ブレーキングでの姿勢の安定感の強さ。エンジン車の場合は、コーナーを前にしてブレーキを踏むと、ボディは前のめりに傾いていく。EVも原理は変わらないのだが、床下にバッテリーを敷き詰めていることによる重心の低さが作用して、前のめりというよりは全体に沈んでいく感じがする。
これら二つは一般道でも感じることはできるのだが、サーキットだと一目瞭然だった。
・三菱トライトン
三菱のピックアップトラック「トライトン」がフルモデルチェンジして、山梨県の富士ケ嶺オフロードコースで試乗した。
トライトンは世界150か国で販売され、年間販売台数約20万台を誇る世界のベストセラー。外国での存在感が違う。アジア以外でも、「オセアニア、中南米、中東、アフリカなどで高い知名度を誇り、シェアNo.1の国も多い」(メディア向け資料から)。新型トライトンは6代目。初代は1978年に登場して、累計販売台数はなんと560万台超。
全長5360ミリ(GSRグレード)という持て余し気味のボディの大きさも、走り出すとあまり気にならない。
2.4リッターのディーゼルターボエンジンと6速オートマチックトランスミッションの組み合わせも、運転しやすさに貢献している。最高出力150kW、最大トルク470Nmという出力以上に停止状態からトライトンを力強く加速させていく。
オフロードコースでの走破性は圧巻だった。4輪駆動システム「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」を駆使し、急な上り下り坂や大きな岩が連続する道、凹凸が連続し、3輪しか接地しないような過酷な場所も難なく走り切った。
トライトンは購入する人だけに歓迎されるクルマではないことも体感できた。
自分で所有するのはもっと小さく常識的なクルマであっても、トライトンの持つ非日常性には大いに惹かれてしまう。夏休みの家族旅行や冬のスキーなどにトライトンで出掛けたら、どれだけ盛り上がるだろうか!
さまざまなアクティビティのための道具をたくさん積み込めるし、高い着座位置やそこからの視界が気分を大いに盛り上げてくれる。過酷なオフロードや岩だらけのところを走らなくても構わない。「そういうところでも走り抜けられるクルマに乗っている」という特別感が休暇の気分を盛り上げてくれる。
仕事や日常生活でガチでトライトンのようなピックアップトラックを必要とする人もいるだろう。しかし、日本の大多数の人の日乗は軽トラックによって営まれている。
トライトンは、非日常でこそ多くの人たちを楽しませてくれるはずだ。トライトンのカーシェアリングやレンタカーなどの運営も、ぜひ三菱自動車に期待したいところ。ここ富士ケ嶺オフロードコースのようなフィールドで、今日のようなテストドライバー氏にオフロードドライビングを教えてもらえたりしたら、最高の思い出になることは間違いない。
・ポルシェ911カレラ
今月の「10年10万kmストーリー」は、25年5万5000km乗り続けられているポルシェ911カレラ(1995年)。
歴史も長く、オーナーやファンの多い911カレラですが、熱心なあまりオリジナル至上主義に陥ってしまっている人も少なくありません。でも、今回、取材させてもらったオーナーさんは違っていました。
・フォーミュラEジャガーTCSレーシング
EVのフォーミュラカーレース「フォーミュラE」世界選手権の初の東京大会がお台場の東京ビッグサイト周辺の特設公道コースで開催された。
日産やポルシェ、マセラティ、ステランティスのDSなど主だった自動車メーカーはワークスチームを送り込んでシーズンを戦っている。ジャガーもそのひとつで、2017年から参戦し始め、東京大会で100レース目を迎えた。
3月30日、ジャガーTCSチームの二人のドライバーミッチ・エバンスとニック・キャシディは、予選の結果9番と19番グリッドを確保。フォーミュラEの予選は、これもF1など従来型モータースポーツと違っている。全車が一斉にコース上でタイムを競うのではなく、準々決勝、準決勝、決勝と4台あるいは2台づつコースインして、そのタイム差で予選順位を決めていく勝ち抜き方式。観客には分かりやすく、眼が離せなくなる。
決勝は1周2.582kmの特設コースを35周して競われる。鈴鹿サーキットや富士スピードウェイのコースに較べれば、コース幅は狭く、全長も短い。ほぼ平坦な駐車場と公道にコースが設営され、臨時のスタンドも建てられているから、全体を眺められるところもない。しかし、巨大スクリーンがあちこちに設けられているから、レースの展開はどこからでも十分に把握できるし、観客への情報提供量も豊富だ。この辺りにも、新しい都市型モータースポーツの息吹を感じる。
決勝レースは実にスリリングだった。スタートからテールトゥノーズでの接近戦が続き、わずかなキッカケで追い越されてしまう。かといって、思慮なく仕掛けていけば良いというものでもないのは、バッテリーに蓄えられた電気を効率的に使わなければならないからだ。走行ラインや空気抵抗などの微細な変化によっても、電力消費量は変化していってしまう。チームスタッフの綿密な戦略と併せて、ドライバーにキメ細かなエネルギーマネジメントが求められるのがフォーミュラEの難しいところであり、醍醐味のひとつになっている。
ジャガーTCSレーシングは東京大会を、ニック・キャシディが19番スタートから8位でフィニッシュ。ミッチ・エバンスは15位。チーム代表のジェームズ・バークレーは、次のようなメッセージを残した。
「応援ありがとうございました。チームが臨んだ結果とはなりませんでしたが、ニックはオーバーテイクが難しいコースで素晴らしい奮闘とスピリットを見せてくれました。ジャガーTCSチームはチームランキングで首位をキープしており、ニックは首位から2ポイント差の2位、ミッチが6位に着けています。次のイタリアGPではチームがさらなる健闘を見せてくれるでしょう」
主催者発表による入場者は2万人。好天にも恵まれ、日本初の公道EVレース、フォーミュラE東京大会は成功に終わった。スタート前は、はたしてどんなレースになるのかまったく見当も付かなかったが、終わってみれば新しい時代の新しい自動車レースであることを見事に示していた。
エキゾーストサウンドも匂いもなく、幅が狭く短いコースを知的に攻略できた者が勝利をつかめる。予選方式や大型スクリーンなど、観客を飽きさせない演出も功を奏していた。従来型のレースとしばらく共存していくのだろうが、これまでのイメージを一新するまったく異なった魅力を備えた新時代のモータースポーツだった。
プロフィール
Hirohisa Kaneko【金子 浩久】
モータリングライター。
クルマとクルマを取り巻く人々や出来ごとについての取材執筆を行なっている。
最新刊は『クラシックカー屋一代記』。