『水平線に恋をして』 第五話 山崎憲治

大人の逸品エッセイ
2024.04.23
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海のSUVをメッセージする北欧生まれ「Targa25.1」

  国内のマリンマーケットは新たなブームに沸いている。北欧製の魅力的なボートがオンパレード状態なのだ。Targa、AXOPAR、SARGO、SAXDOR、Nord Star、QUARKEN等、北欧フィンランド製マルチパーパスボートが確実に新しいマリンマーケットを作り上げたようだ。世界的にもマリンのオーナー年齢は10歳若返りし、そのライフスタイルに適応した新たなボートが建造されてきた。海のSUV、マルチパーパス艇。海を楽しむ多様性に適応したボートの登場だ。国内でもその先駆となったブランドがTargaだ。その誕生は1976年、ファミリービジネスとした始まったボートビルダー「Botnia Marin」のパイロットハウス艇シリーズ。今では23フィートから46フィート迄、9艇種のラインナップを誇る。佐島マリーナで、伝説を生み出した25フィートの最新モデルに試乗した。

  北欧のワークボートスタイル、リバース型フロントウインドウのパイロットハウスを持つそのフォルム。オフホワイトのハルカラー、サイドドア脇から後部アフトデッキをめぐるチークレールのブラウン、パイロットハウスのチークトリム、ブラックのハンドレール、パイロットハウスルーフのサイドのダークブルー、ウオーターラインのダークブルーのダブルライン。直線基調のフォルムにバランスの良いカラートリム。高速走行時のエアロダイナミクスには反するが飛沫や雨の水滴を離反させる逆傾斜リバースウインドウ、作業性の良いウオークアラウンドとキャビン両サイドのスライドドア、セカンドヘルムのみのシンプルなフライブリッジ。どこか無骨にすら見えるそのたたずまいはまさに海のSUVといえる。無骨さが生み出すエレガンスが漂う。全長8.38ⅿ全幅2.88、コンパクトでありながら安定感に満ちた存在感を漂わせている。外洋仕様オフショアモデルとして「Botnia Marin」のその後の成功を象徴することになるレジェンダリーなT25のデビューは1979年。このモデルは第四世代のT25.1となる。
 

チークパネルの貼られた後部トランサムステップ、左舷サイドにはスイミングラダーが折りたたまれる。センターは上部に開閉し、真下のドライブの点検も容易だ。トランサムステップの周囲にはブラックのバンパーが張り込められ、同様にガンネル全周をぐるりとブラックのラバーバンパーが取り囲む。バウにはY字のバンパーが船首をガードする。中央のトランサムゲートから後部コクピットへ。手すりのチークがいい趣を漂わす。両サイドコーナにチークの貼られたベンチロッカー、パイロットハウス後端両サイドに折り畳み式チークシートが用意される。広いフロア下にはスターンドライブのユニットVolvo-D4-300/DPI×1が収まっている。特徴的なセミフライブリッジの始まりがこのT25.1の初代に始まる。パイロットハウス後端部に張り付くようにセットされたセカンド操船席ヘルムステーション、実に合理的なセッティングが施されている。2段のウッドパネルの貼られたステップで左右2脚のヘルムシートに。右舷はキャプテンシート、ステアリングホイールの右に Volvo D4のコントローラー 、エンジン回転計、チルトアングル計、ラダーアングル計、前後スラスタースティックなどが並ぶ。レーダーアーチやグラブレールすべてブラックパウダーコートが施されている。サイドウオークでバウへ。U字型ベンチの座面はオールチークが施され、それぞれの下はストレージ。パイロットハウス前部にフォアデッキからのエントランスとなるトイレコンパートメントが設置されている。電動トイレにシンク、シャワー、ライトが潜んでいる。
 

キャビンにサイドスライドドアから入る。両舷に用意されるサイドスライドドア、利便性抜群、これは素晴らしい。キャビン内は落ち着きのあるウッディな趣に包まれる。フィンランドの木工技術が作り上げる重厚で上品なインテリアの落ち着き。ルーフ、ヘッドアップパネル、サイドウオールにチークが奢られている。実に巧みにレイアウトされた操船席ヘルムが展開する。ステアリングホイールの周りはタッチスイッチル類、コンソール右手にはVolvo-D4-300/DPI のコントローラー、左には前後バウ/スターンのスラスタースティック、トリムタブ、各種スイッチ。前方にGARMINの12インチマルチモニターがセットされる。頭上のオーバーヘッドにアナログメーターが整然と並ぶ。エンジン回転計、油圧、冷却、燃料、チルト、燃料、バッテリー、ラダーアングル。ルーフトップのサーチライトの手動コントローラー。左舷サイドにはサービスバッテリー計、清水計などがセットされる。フロントのリバースウインドウには遮光のロールフィルムが内側に貼られてる。おかげでメインヘルムではサングラス不要。
 

ヘルム左舷前方のテーブルトップを開けるとギャレーのシンクが現れる。その下はギャレーストレージ。50Lの冷蔵庫も潜んでいる。キャプテンシート、左舷のナビシート、後部のベンチシートはアルカンタラ。カラーはグレー、ホワイトのパイピングの施されたハイセンス。ここにも仕掛けが隠されている。センターにルーフまでポールが立っている。そのポールにチークテーブルがセット出来るのだ。テーブルを降ろし、ヘルムシートを回転させると5名が対面するサロンが展開する。3人掛けシートの2人分のシートは左舷サイドに跳ね上げ、フロアハッチを開けるとロアフロアが現れる。2段降りることでロアデッキキャビンとなる。両舷にはベッドスペースが確保されている。後部ウオールにはチークパネルの大型ストレージと開閉可能な後部ウインドウが展開する。理にかなった実利的なアイデア満載、海遊び満喫のための設えだ。エアコンは装備されないが北欧の厳寒期対応の強烈な燃焼式暖房機エバスぺシャーは装備される。オーディオシステムは最新のFUSION、抜かりはない。
 

現在「Targa」のラインアップはT23.1を最小モデルにT25.1、T27.1、T30.1、T32、T35、T37、T41、T44、T46の10モデル。フィッシャビリティを特化したTARFISHシリーズ、コーストガードやポリス、タクシーボートやダイビングボートなどに向けたPROFESSIONALシリーズが用意される。“The 4×4 of The Sea”のキャッフレーズの「Targa」、そのイメージはメルセデスGクラスを彷彿とさせる。
 

先ほどまでの晴天は雲行きが怪しくなっている。気温24度、薄曇り、南西風7m~。波0.7m~1.0m。

チョッピーな波が立ち始めている。FBでの操船。スロットルを入れていく。700rpm4.6ノット1.9L/h、1000rpm5.9ノット3.8L/h。確実なトルク感がある。1500rpm7.98ノット13.0L/h、1800rpm9.41ノット20.0L/h。2000rpm11.2ノット25.0L/h、2300rpm16.1ノット32.0L/h。ほとんどハンプを感じさせないままきれいなプレーニングに移り速度は上昇していく。風が強くなったのか風波が重なり始める。うねりを伴う波、その中に突っ込んでみる。このコンパクトなフネなのに重量感のある波切とともにことが済む。ターンを試みる。スターンドライブの軽快な特性を維持しながら安定した挙動を見せつける。ワンサイズ上のフネに乗っているような浮遊感に包まれる。ハルの強靭さ、全体のバランス、絶妙なものがある。コア材をサンドイッチにしたバキュームインフージョンの工法に更にウレタンフォームを注入したハルとストリンガーは軽量高剛性を約束するだけではなく、防音性にも大きく寄与している。ディープVハルのスポーツ性が遺憾なく発揮される。静寂性、それは最高速を試すためにメインヘルムでの操船時にも感じることができた。フィンランド北西部ボスニア海で鍛えあげられたからこそのハイレベルなシーワージネスを身に着けた。真冬の激寒期の対候性、短い夏のエンターテーメント、日本の海の環境に素直にリンクする。
 

2500rpm19.8ノット34.0L/h、2800rpm25.0ノット34.0L/h、3000rpm27.0ノット42.0L/h、フルスロットル3500rpm34.7ノット48.0L/h。平穏なアーキベラゴ多島海での楽しみ、そこを外れた荒れる海での耐候性能、マニューバ―への信頼がこの「Targa」スタイルを生み出した。「Botnia Marin」のその後の成功を象徴することになるオフショアボートT25のデビューは1979年。この最新モデルは第四世代のT25.1。歴史の証人に出会った興奮に包まれていた。ボーティングライフをこのT25.1で始められたら幸いなことに違いない。

安定感を見せつける高速走行シーン。すべての領域で素直なマニュバビリティを感じさせる。ひとクラス上の大型艇に乗っているような浮遊感をもたらすのが頼もしい。

一見して好バランスを感じさせる船底形状。ディープVハルのもたらす高度なスポーツ性が垣間見える。

ウオークアラウンド、サイドスライドドア、これがTargaスタンダード。あるべきものを理にかなった方式で設える。まさにクロスオーバー艇、海のSUV。無骨さが秘めるエレガンスが人を惹きつける。

細やかなアイデアで生かす空間の演出、コンパクトな中でスペースを確保し生かす、Targaの妙技だ。

フルレングスバースが両舷に現れるアフトバース。チークの貼られた扉の壁掛けストレージ。ヨットのバースを思わせる。トイレはパイロットハウス前方に、シンク、シャワーも用意される。バウデッキからのアクセスとなる。

プロフィール

Kenji Yamazaki【山崎憲治】
 

クルマとプレジャーボートに対する情熱と日本人で最も多くの大型プレジャーボートのテスト経験者としての評価が高い、
海外ボートショーでも知られたジャーナリストである。

2008から「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」に携わり、現在は「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。

2000年から、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」実行委員を務め、現在は同組織で評議委員。

また月刊PerfectBOAT誌顧問。

主な著作は『日本の外車生活』(双葉社)、『新・ニッポンの外車生活』(ネコ・パブリッシング)など。

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