『水平線に恋をして』 第四話 山崎憲治

大人の逸品エッセイ
2024.03.29
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 2024年3月21日、横浜のインターナショナルボートショー会場に朗報が飛んだ。LEXUSのフラッグシップLEXUS LY650の新たな建造計画が発表されたからだ。パシフィコ横浜会場のトヨタマリンブースには1/20サイズのスケールモデルが展示され、名称は「LEXUS LY680」となった。フライブリッジの拡大、Tトップポールの変更、スイミングプラットフォームの拡大などが表現されている。

 ここで、そもそものストーリーを振り返ろ。このLEXUS LY650は、2019年9月、北米フロリダのボラカトンでのワールドプレミアに始まる。フロリダの青い空と海、ハイエンドなホテルのプライベートポンツーンに舫われた65フィートの瀟洒なクルーザー。ラグジュアリーライフスタイルブランドを目指すLEXUSのシンボルとなるLEXUS LY650が、世界からのメディアやゲストにお披露目された。そして2019年10月30日に北米での販売が開始された。ジャパンプレミアは2020年3月の予定だったが、残念ながらコロナ禍の影響で開催未定のまま時が過ぎた。 

 翌年、国内にもたらされた1艇。2021年11月、国内で一部メディアにお披露目が行われた。横浜ベイサイドマリーナでの遭遇、シートライアル前の外覧と内覧。他に類似するものがない、異彩を放つそのスタイリング。船首バウから船尾スターンまで流れる曲線、流麗なクーペフォルム。船体ハルのメタリックシルバー、前方ガンネルのブラウンゴールド、フライブリッジのカーボンブラック。そのたたずまいは、陽光を浴びて秘蔵された磁器のようにきらめいている。伸びやかな曲線となだらかな曲線。美の綾を織りなす局面、美神を呼び込んだフォルムに目を奪われる。どの既存のボートにも見られないLEXUSのデザインフィロソフィーL-finesseを具現化したデザイナーの思いがほとばしる。特にふくよかなガンエル上部の構造は、よく実現できたと感動ものであった。 

 トヨタのマリン事業20余年、LEXUSブランド30年余の融合、LEXUSをラグジュアリーなライフスタイルブランドへ昇華させるCRAFTEDのフィロソフィー、そのICONとしての存在がこのLY650だった。アバンギャルドなレクサスデザインの船体を実現化したのは北米ウィスコンシン州のMarquis Yachts社。エレガントでアートフルなインテリアは世界のマリンシーンをリードするイタリアのスーパーヨットデザイナーNuvolari Lenardとのコラボレーションだ。更にLY650はそのドライブユニットにVolvo Penta D13‐IPS1350を搭載した。直6OHC24バルブ12.8Lディーゼルターボ、クランクシャフト出力1000ps/2400rpm。トヨタグループ以外からのエンジン選択の決断。試乗では軽快な走行フィーリングを感じ取り、安定感に満ちた豪華サロンクルーザーとして期待される存在だった。船底のストラクチャーはCFRPカーボン繊維強化プラスティック、ハルはGFRPバキュームインフレーション、強靭なハル構造が安定した走行性能を保証している。 

 2200rpm/30ノット。最高速度2440rpm/35.1ノット。この大いに期待され話題豊富なLEXUSブランドのラグジュアリーボートだが、残念なニュースがその後に流れてきた。コロナ禍での予期せぬ出来事、なんとMarquis Yachts社が破綻したのだ。受注は絶好調のまま生産工場が閉鎖、すべての受注を止め、建造できたのはわずか4艇のみだった。 

 あれから3年、世界中のラグジュアリーヨットメーカーとの協業を模索してきたLEXUSに、やっと朗報が飛び込んできた。台湾のラグジュアリーヨットブランド「Horizon」とのパートナーシップが成立し、Horizonグループの造船会社Vision Yachtsでの建造が決定。LEXUS LY650がリボーンすることになったのだ。 

 1987年創業のHorizonは100フィートオーバーのスーパーヨット建造の豊かな経験をもつ。カスタムビルド、ビスポークにも対応、最適なソリューションを提供できる組織体、この名門同士の無事の婚約に期待は大きい。トヨタ生産方式TPSの採用とHorizonのカスタムビルドの融合で、さらなるブラッシュアップが期待できる。 

 2025年のデリバリーに向けてLY650は進化する。進化したフライブリッジは1,400㎜拡張され、BBQグリルやウエットバーがセットされ、ゆったりしたラウンジソファが採用される。スイミングプラットフォームも700㎜延長され、シートイのキャリーやビーチクラブの展開が豊かになる。これにより全長は68フィートに。フライブリッジのTトップを支える両端のツインポールは後部へ広がったフライブリッジの屋根イーブスを支えながらアフトデッキのラウンジシート脇までデザイン化され降りている。 

 大きな進化変更はこれだけだが、名称は「LY680」となり、そのデリバリーは2025年の予定と発表された。全長20.66m全幅5.76m、エンジン2×VolvoIPS13。燃料タンク4.012L清水852L。3ステート、定員15名。受注も始まり販売価格は$5.1ミリオン、日本円で7億7000万円以上。すでに多くの受注を受けているようで、この成功の先にさらなるカテゴリーのLEXUSボートが誕生することを願うばかりだ。国内向けなら24mぎりぎりまでのメガLEXUS LYや50フィートクラスのコンパクトLEXUS LYの登場も期待したい。 
 

 豊かなマリンライフのシンボル、LEXUSボートが導く新たなステージのその先に、欧州並みのラグジュアリーなマリンシーンが日本のマリーナに展開することを夢見るばかりだ。 

プロフィール

Kenji Yamazaki【山崎憲治】
 

クルマとプレジャーボートに対する情熱と日本人で最も多くの大型プレジャーボートのテスト経験者としての評価が高い、
海外ボートショーでも知られたジャーナリストである。

2008から「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」に携わり、現在は「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。

2000年から、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」実行委員を務め、現在は同組織で評議委員。

また月刊PerfectBOAT誌顧問。

主な著作は『日本の外車生活』(双葉社)、『新・ニッポンの外車生活』(ネコ・パブリッシング)など。

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