・マツダ MX-30 Rotary-EV
ロータリー発電の意欲作だが……
・マツダ MX-30 Rotary-EV
ロータリー発電の意欲作だが……
ロータリーエンジンを駆動ではなく、発電に用いるPHEV(プラグインハイブリッド車)。ロータリーエンジンは小型軽量なので発電に向いていて、マツダは長年にわたって研究と開発を続けていた。10年ぐらい前に、マツダの横浜R&Dセンターで、デミオの後席下にロータリーエンジンを横に倒して搭載し、発電するプロトタイプに試乗したこともあった。
MX-30 Rotary-EVは、EVモードでも、ハイブリッドモードでも電気の力だけでモーターで走るので、滑らかで力強く、静かな加速は大きな長所だ。しかし、それは他のPHEVでもEVでも変わらない。
残念だったのは、メーターが古臭いこと。充電と放電の状況、電力の残量、ガソリンの残量などを示すために、長いプラスチックの針を使った大きなメーターが3つもある。いまどき珍しい。せっかく“ロータリーエンジンをPHEVの発電機に使う”というコンセプトは新しく、マツダのブランドアイデンティティ向上に大いに役立つはずなのに、この古臭さが不釣り合いだ。一目瞭然なはずなのに、開発中に誰もそのことを指摘しなかったのだろうか? タイヤノイズや風切音などが目立つこともあった。
マツダがロータリーエンジンにこだわるのは当然のことなのかもしれないが、それはこのクルマでなくても良かったのではないだろうか。開発者も半ば認めていたが、技術そのものではなく、技術をどう活かせば魅力的な商品になるのかという企画の煮詰めが弱い。
マツダに限らず、日本の自動車メーカーには優れた機械を造ることだけは追い求めるが、魅力的な商品を模索しようとする姿勢が見られない。つまり、性能や燃費、価格やコストなど“数字で表現できること”の増減には躍起になるが、魅力や価値などの“数字には置き換えられないこと”の重要性に気付いていないのだ。
・ポルシェ カイエン“トランスシベリア”
世界限定24台のマシンで2週間
12月10日に、東京・清澄白河の書店「Books&Cafe ドレッドノート」で写真家の小川義文さんとトークショーを行った。安くはない入場料なのに、早い段階で満席完売となったのはありがたかった。小川さんと話すべきことはたくさんあったが、2007年と2008年に出場した「トランスシベリア」についてが中心となった。ロシアのモスクワからモンゴルのウランバートルまで、2週間を移動しながら競い合うラリーレイドだ。僕らはポルシェの開発センターが、このラリーレイドのために24台製作した2シーターの「カイエン・トランスシベリア」に乗って戦った。帰国後に長い記事も書いたし、CSテレビ番組も制作されたし、ポルシェのパーティで話したこともあった。今回のトークショーでは、少し違った角度から話せたと思う。
・ランドローバー ディフェンダー
深化を続ける英国の四駆紳士
ディフェンダーは、2020年に日本に導入されて以来、少しづつボディバリエーションとパワートレイン、グレードを増やし続けてきた。2024モデルとして新たに追加されたV8ガソリンエンジンを「110」ボディに搭載した「110 V8」と、「130」ボディに3リッターディーゼルエンジンを搭載した「130 OUTBOUND D300」に都内で試乗した。
「110 V8」の第一の魅力はV8エンジンらしい排気音だ。最近のエンジンにしては珍しく、アクセルペダルに反応する音の表情が豊かだ。キャラクターの濃厚なエンジンは、スポーツカーでも少なくなった。ただし、燃費は厳しくて、都内での試乗中の燃費モニターでは5km/lから9km/lの間の値を行き来しながら示していた。
「130 OUTBOUND D300」は、全長5275ミリもある「130」ボディの車内を3列ではなく2列シートとした分、1329lもの広大なトランクスペースを実現している。3リッター直6ターボディーゼルエンジンは静かで振動も皆無な上に力強く現代的だ。
「130」ボディともなると、3列シートでも十分に広いトランクスペースを有している。5人までしか乗せないか、7人乗せることもあるのかの違いだ。日本で発売されて以来、130ボディはディフェンダー全体の2パーセントしか販売されていないことからも、「2列か、3列か?」は、ごくごく特別な乗り方を考えている人の悩みだ。でも、そんな悩みほど楽しいものはないだろう。
・アバルト500e カブリオレ
EV時代の蠍の音は…
アバルト500e カブリオレには、発表時のメディアイベントで試乗していたが、改めて借り出して乗った。アバルト500e カブリオレは、先に発表されていたフィアットのEV「500e」のアバルト版で、約3割のパワーアップが行われている。
再び借り出してまで乗りたかったのは、EVとしての走りの良さもさることながら、スポーツマフラー製造から始まったアバルト社が、エンジンもエンジン音も存在しないEVを造り始めた事実の意味を考えてみたかったからだ。
アバルト500e カブリオレには、かつてのアバルトのレーシングカーのエンジン排気音を電子的にサンプリングした擬似音を車内外に向けたスピーカーから鳴らすソフトウェアが組み込まれている。その音を、歩道沿いの駐車場で録音していたら、通行人の中年男性から話し掛けられた。「雑誌で読んで、すごく興味を持っているんですよ」と興味津々な様子だった。助手席に乗せてあげて、その辺りをグルッと走ってきても良かったと今となっては少し後悔している。その日に録画した動画は、YouTubeの「金子浩久チャンネル」で編集して近日アップする予定。
・BMW 740i
3台続けて7シリーズへの愛を
1990年から掲載雑誌を代えながら続けている「10年10万kmストーリー」で12月に取材させてもらったのが、BMW 740i。84歳のオーナーさんは、2000年式の中古車を2005年から18年15万5000km乗り続けている。その740iの前には先代740iを、その前には735iLをと、3台続けて7シリーズに乗っていたと聞いて驚かされたところから始まり、経験が豊富だからユニークなエピソードが次から次へと出てくる。740iのモディファイの様子にしても、そんなオーナーさんの個性が濃厚に反映されていたのが面白かった。息子さんが連載を読んでくれていて、僕のホームページ経由で紹介メールをくれたのがキッカケだった。noteでの有料配信と「モーターマガジン」誌で連載中。
・ベントレー マークⅥ
Mr,涌井の70年前のベントレー
2023年3月に上梓した『クラシックカー屋一代記 涌井清春』の主人公である涌井さんを訪れたら、若き来訪者氏とともに1950年のベントレー・マークⅥに乗せて走ってもらった。このマークⅥはH.J.マリナーというコーチビルダー(ボディ製造業者)で、1台ずつ職人がアルミパネルを叩いて形作られたボディが架装されている。
1941年まで造られていたマークⅤのメカニズムを刷新したマークⅥは、1946年から造られ始めた戦後型だ。マークⅥの多くには、戦後になって初めてベントレーが自社工場内に建てたボディ工場で造られるスチール製のスタンダードボディが架装されていたが、戦前型のようにコーチビルダー(馬車時代から続くボディ製造業者)によって造られたボディが架装される例も残っていた。この黒と白のツートーンボディのマークⅥもその希少な1台だった。スプリングが内蔵された総革張りシートのソファのような柔らかな掛け心地とメーターパネルが、クラシックカーならではのものだ。都内のアップダウンがある道でも現代のクルマに混じって遜色なく走っていた。
プロフィール
Hirohisa Kaneko【金子 浩久】
モータリングライター。
クルマとクルマを取り巻く人々や出来ごとについての取材執筆を行なっている。
最新刊は『クラシックカー屋一代記』。