書斎2023.11.21

これぞ世界に誇るニッポンの財産 町工場イズム

日本のモノ作りを支える技術者や職人たちの驚くべき底力。これを活かして製作された、世界に誇るべき町工場発の逸品の数々をとくとご覧あれ。

アナログレコードプレーヤーをさらに進化させた究極の一台

 神奈川県茅ヶ崎市に本社を構える「由紀精密」は、電子機器などに使う精密ネジの町工場として1950年に創業した。その後、日本経済の発展と共に事業を拡大させるが、2001年のITバブル崩壊、さらに電子機器の小型化を受け、精密ネジの需要が激減する。経営危機を打開すべく、長年培ってきた精密切削加工技術を活かし、付加価値の高い部品への取り組みを開始。もともと同社の部品は品質の信頼性が高かったことから、徐々に受注を獲得し、現在は航空機や人工衛星、医療機器の部品を手がけるまでに成長した。
 そんな同社が「当社の技術を集結した製品を生み出し、多くの方々にも知ってもらいたい」との想いから、2017年、アナログレコードプレーヤーの開発に着手。得意とする精巧な旋盤加工技術を駆使して、機械として正確・精密に動く製品を完成させた。
 開発に際し、「レコードの音溝に刻まれた微小な音源情報を逃さず忠実に拾うこと」を目的に設計を行なった。まず、レコードプレーヤーの大敵とされる振動をとことん制御するために、各部品の素材は振動特性を計算して厳選した。また、トーンアームを新たに開発、カートリッジの針を支えるカンチレバーがアームの揺れに合わせて正確に動くよう、独自に設計した制振ブレーキを装備した。さらに、各部が発する機械ノイズを完全に排除するため、ターンテーブルの回転盤を動かすシャフトに磁気ベアリングを採用し、軸受けに接触せずに回る構造にしている。
 電源を入れると各部品が精密に動き、定位が明確で驚くほどにナチュラルな音を引き出していく。低音域は埋もれることなくクリア、目の覚めるような中音域も心地よい。聴きなれたレコードも本機にのせれば、これまで感じられなかった新たな音楽と出会えるはずだ。

安定した回転と徹底的にノイズを抑えた設計により、レコードに記録された音を純粋な状態で引き出してくれる。極限まで研ぎ澄まされた機能美は圧倒的な存在感を醸す。

【振動を抑えるブレーキを採用した専用トーンアーム】
独自設計したアームに振動を抑える工夫を随所に施し、さらに防振材を使用することで外部振動も遮断。純粋に音溝情報

【回転動力のみを回転盤に伝えるシンメトリーレイアウト】
水平方向に連結した2本のシャフトで、ドライブ糸から受けるテンションバランスを調整。転倒方向への動きを抑え回転動力のみを回転盤に伝える。

【徹底的に摩擦ノイズを軽減するマグネットベアリング】
回転盤からシャフトまでの回転部は、最下部の1点のみで接触するコマのような構造。永久磁石による非接触軸受けにより静粛な回転運動が持続する。

【独特の音場感を得るための導電性回転盤】
静電気の滞留を抑えるため、回転盤本体に導電性を確保。ターンテーブルシートを使用せず直接レコードをのせて聴くことで独特の音場感を得られる。

ミクロン単位の加工を行なうことができる精密加工機。高い品質要求があるロケットや人工衛星に使用される高精度部品の加工も行なう。

由紀精密の加工リーダーをつとめる八木氏。『AP-01』の主要部品も担当する同氏は、細かな部品もひとつひとつ丁寧に加工し、品質を守っている。

ノスタルジックな音を奏でる無骨でレトロなホームオーディオ

 大阪市東成区は、多くの町工場が立ち並ぶモノ作りの町。この地で1945年に創業した「ノボル電機」は、業務用の拡声音響装置を作るメーカーだ。同社が手がけた家庭用のオーディオ機器は、デジタル全盛の時代にアナログの質感にこだわった重厚な製品。業務用のスピーカーユニット「振動板」を採用することで、力強くノスタルジックな音響を再現する。
 今回紹介するのは、スピーカー2種類とアンプの3商品。まず、コンテナ船などで実際に使用されている、船舶用ホーンスピーカーをベースに開発されたのが「ホーンスピーカー」。アルミ鋳造による厚みのある金属筐体が、温かみのある郷愁に満ちた音を届ける。
 そして、「ボックススピーカー」は、アルミプレートの表面にアルマイト加工を施した無機質な箱型の筐体に、77mm径フルレンジのスピーカーユニットを搭載。まるで古いカーステレオのような、高音が硬く乾いたような音を奏でる。「モノラルアンプ」は、Bluetooth®搭載のアナログアンプ。ダイヤルやプッシュボタンなどの物理スイッチ類が味わい深い。

精密に動く機械式砂時計で待ち時間を知的好奇心で満たす

 ガラス製の円筒の中でキラキラと輝くパーツの塊。これはひっくり返すことで動き出す、機械式砂時計『オシログラス』だ。
 この製品名は、規則的な周期で揺れるという意味の「オシレイト」と、砂時計の「アワーグラス」を組み合わせた造語。砂時計と同じく重力を動力とするが、下に落ちていくのは機械のユニットだ。
 機械式時計と同様の仕組みで、落ちるスピードをコントロール。3分計と5分計の2種類があり、ユニットが落ち切るまでの時間を測ることができる。動く機械を眺めながら、待ち時間を過ごそうという趣向なのだ。
 1950年に電動の木製模型製作からスタートし、数々の発明によって動く広告ディスプレイメーカーのパイオニアとなった「国際ディスプレイ工業」の製品で、町工場が持つ高い技術と、発想の柔軟さを感じる精巧な「オブジェ」だ。

砂時計と同じように。本体をひっくり返すと、内部ユニットが機械式時計と同じ原理でスピードを制御しながら、一定時間で落下する。

ジュラルミンの塊から削り出した美しき金属のミニテープカッター

 航空宇宙機器にも使用される、強度が非常に高くて軽量なアルミニウム合金「ジュラルミン」製のミニテープカッター。ジュラルミンの塊から削り出して形成されており、刃の部分も含めてひとつの部品で成り立っている。
 製作したのは埼玉県川口市で医療機器や光学機器、ホビー製品まで、幅広い分野に精密な金属加工部品を提供している「栗原精機」。その高い切削技術による美しい仕上がりが堪能できる。

濡れても破れない優れた耐久性で今まで使ってきた紙袋にさようなら

 明治30年に創業した「片岡商店」は、学生たちのためにスクールバッグを作り続けるメーカーだ。
 企画・製造はもとより、丁寧に修理対応を行なってきたことで、壊れにくい鞄の設計ノウハウを蓄積。学生たちが3年間、酷使し続けても壊れないサブバッグ『さよなら紙袋』を開発した。
 生活防水性と高い耐久性を備えたサブバッグ。今まで紙袋に大量の資料を入れて持ち歩いていたビジネスマンにとっても強い味方だ。

タイヤとフェンダーを再現した車好きに贈るブレスレット

 このデザインを見て、ピンときた方はかなりのクルマ好きとお見受けする。1970年代に登場したスーパーカーが履いていた、高性能タイヤのトレッドパターンに着想を得たブレスレットである。
 精密金属加工を得意とする東京・八王子のメーカー「ナラハラオートテクニカル」の製品。レーザー加工機で彫刻したゴムと、フェンダーをイメージしてアルミから削り出した金属パーツからなる、斬新なデザインのアクセサリーだ。

板金のスペシャリストが手がけた金属製の小さな組み立て模型

 モノ作りを専門とする町工場が、作る喜びそのものを商品化したのがこの『トイメタル』だ。
 約20点ほどのパーツからなるこの金属模型キットは、付属する専用のミニ工具だけを使って簡単に組み立てが可能。ステンレスの一枚板からレーザーで切り出された各パーツは、職人が手作業で曲げ加工を施している。1971年に三重県で創業したプレス・板金加工メーカー「前田テクニカ」の職人技が光る模型である。

鉄の一枚板を叩いて成形 分厚い肉料理もお手のもの

 中華料理の名店が軒を並べる横浜・中華街。その店の多くで愛されているのが山田工業所の中華鍋だ。同社の鉄鍋はすべて、一枚の鉄板を何度も叩いて成形する打出し製法によるもの。「うちの鍋は鉄の板を何千回も叩いて成形します。その過程で鉄から不純物が叩き出されて軽くなるのです」と語るのは、同社2代目社長の山田豊明さん。「たとえば火の当たる底の部分は薄く仕上げることで熱伝導がよくなり素材に火が通りやすくなります」と、扱いやすさと料理の仕上がりの早さに自信満々。
 これほど優れた打出し製法の鍋は、機械もすべて自前でそろえ、経験に裏打ちされた技術を持つ山田工業所ならではの逸品だ

超安定の回転に息を呑む精緻を究めた美しい独楽

 東京・葛飾の「ミツミ製作所」は、ミクロン単位の精密な切削加工が持ち味。この優れた旋盤技術を駆使して作った2種類の独楽だ。
「エンスピン」は、軸とボディが独立した特殊な作りのベアリング独楽。高速回転によるジャイロ効果で驚異のバランス力を発揮し、ペン先や指先といった不安定な場所でも回転する。
「ご縁独楽」は、“ご縁”と“5円”をかけ合わせ、ご縁が巡り巡って物事がうまくいくようにと願いを込めた。5円玉をセットして楽しめるほか、5円玉の穴の中で独楽を回して遊ぶのも一興だ。

童心に返って回して楽しむもよし 十二支の鋳造ベーゴマセット

 電子ゲームなどなかった昭和40年代ごろまで、子供たちが夢中になった遊戯のひとつがベーゴマである。埼玉県川口市で昭和28年に創業した「日三鋳造所」は、今なおベーゴマの製造販売を続けている日本で唯一のメーカーだ。本品は、「物事がうまく回る縁起物」として親しまれてきたベーゴマの天面に十二支の文字をあしらった、干支ベーゴマ12個セットである。
 専用の桐箱に収められ、実際に遊べるように紐も同梱した。子供の手にはずしりと重かったベーゴマを手に取り、懐かしい日々を振り返ってみてはいかがだろう。

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