まるで「網」のような極細の線画を重ねて動きを描き出す「赤網」技法の作品。「わたつみ」とは碗裏に極細文字で書かれた『古今和歌集』巻七の和歌〈わたつみの 浜の真砂を かぞへつつ 君が千歳の あり数にせむ〉から。砂浜の風紋が広がっていくような繊細かつリズミカルな絵柄だ。「碗の広がりに合わせて、網が広がっていく模様を楽しんでください」（梅村さん）

九谷焼の魅力を世界に発信注目の新世代若手女性作家3人

　文化2（1805）年の創業以来、220年以上の歴史を繋ぐ金沢の「鏑木商舗」は、九谷焼の窯元兼販売店として人間国宝から若手作家の作品まで扱い、輪島塗など石川県の伝統工芸なども幅広く手がけている。能登半島地震の石川県伝統工芸応援プロジェクトを自ら立ち上げた、八代当主の鏑木基由さんはこう語る。
「今回の地震からの復興には長い時間がかかります。当鏑木商舗は220年の歴史がありますが、これから50年後、100年後の九谷焼、石川県の伝統工芸を育てていく使命を感じています。そのためには、若い作家を育てていくことが不可欠です。今回ご紹介する3人は、20代の若い感性で九谷焼に新しい魅力を与えてくれると期待している女性作家たちです」　
　鏑木さんは、観光・文化財政策の専門家で伝統工芸に詳しいデービッド・アトキンソン氏の〈これからの日本はテクノロジーではなくて、文化と伝統工芸で生きていくべき〉という言葉を聞いて勇気をもらったそうだ。「AIの時代には、人間の美術、アートの感性がますます必要になっていきます。人間にしか生み出せない手業の魅力を、日常の生活の道具の中で楽しんでいただけると、とてもうれしいです」
　鏑木商舗の九谷焼は、明治～大正時代にはウィーン万博、フィラデルフィア万博などにも出品し、多くの賞を得た歴史を誇る。将来の〈21世紀のネオ・ジャポニスム〉の担い手を応援してみてはいかがだろう。