『自動車亭日乗』No.20 2025年5月の印象に残った5台 金子浩久

趣味人コラム
2025.06.24
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・ジャガー TYPE00
 

 マイアミ、パリと続き、東京で発表されたジャガーのコンセプトカー「TYPE 00」。 

 まだスタイリングのコンセプトを提示する段階のものだが、大柄で直線基調で凹凸や段差のほとんどない造形はこれまでのどのジャガーとも似ていない。大胆で、大変に未来的だ。だから、発表会場に詰めかけたメディアやジャーナリストたち、直後からのSNS上などからは懐疑的な反応も多く寄せられていた。


 しかし、ジャガーはそれを見越していたのだと思う。ネガティブな反応を見越し、むしろそれをアジテイトしているようにも伺える。会場には姿を見せてはいなかったが、ジャガーランドローバーのチーフクリエイティブオフィサーのジェリー・マクガバンの次の言葉が一番良く表されている。


 「TYPE 00は、EVの常識に沿ったものではありませんし、万人に愛されることを望むものでもありません。驚きを与え、シビレさせ、賛否両論を巻き起こすことでしょう。しかし、それはジャガーブランド本来の価値観に立ち返るという、私たちの決意を雄弁に物語っているのです。」
 

 TYPE 00のデザインについては「クリエイティブリスク」という言葉も聞いた。時流に沿って、誰からも好かれるだけでは駄目だというわけです。とても刺激的な言葉だ。TYPE00の実車が登場するのが2025年後半で、販売されるのが2026年後半というから注目し続けたい。

・BMW 3.0CSi
 

 1960年代から70年代に掛けて造られていたBMWの2ドアクーペが29台も日本全国からお台場のBMW Tokyo Bayに集まった。3.0CSiとか2800CSといったモデル名が有名だが、「E9」というコードネームで表した「BMW E9オーナーミーティング」という集まりだった。
 

 3.0CSiには若い頃に憧れていて、いま見てもカッコ良い。カッコ良さの理由は、ハードトップ形式の4人乗りボディにあるのだと思う。“ハードトップ”とは“ソフトトップ”に対応する言葉だが、前後の窓ガラスを全部下ろすと前席の端から後席の端まで遮るものが何もなくなってスッキリすることが特長だ。後席に座っていたとしても、かえって前席よりも開放感があるくらい。それも窓を開けてみて、初めてわかる。

 ハードトップを採用するクルマが現代になかなか現れないのは全車エアコン時代になったからだろう。暑くもなく寒くもない時期に窓を開けて風に当たりながら走るのは気持ちがいい。電動化されたクルマは静かに走るから、窓を開ける動機にもなる。もしかしたら、これから復活してくるかもしれない。

・シトロエン エグザンティア
 

 今月の「10年10万kmストーリー」には、25年20万km乗り続けられているシトロエン エグザンティア(1995年)とそのオーナーの男性が登場する。

 エグザンティアは、タイミングが合っていれば買って乗っていただろうというくらいに僕も気に入っていた。このエグザンティアは最近はトラブル続きでオーナーを困らせているようだが、だからといって乗り換える他のクルマを探すようでもないのは、愛情の深さゆえのことなのだろう。大き過ぎず小さ過ぎないボディサイズ、ハイドロニューマチックサスペンションによる快適な乗り心地、大きなトランクなど、久しぶりに接しているうちにその記憶が甦ってきた。

・トヨタ RAV4
 

 世界中で人気のトヨタRAV4の新型が有明アリーナで発表された。会場には、プロトタイプを含めた歴代のRAV4も展示されていた。日本市場では販売されていなかった時期もあったが、新型は6世代目になる。やはり初代の特に2ドアモデルが魅力的に映った。初代が登場した1994年当時には、まだヘビーデューティなオフロード4輪駆動車の方が多く、ソフト&ライトで街乗り向きのSUVというカテゴリー自体が始まったばかりでライバルも少なかった。そのトレンドの先頭を走っていたのが初代RAV4であり、同じトヨタのハリアーだったりした。早く乗ってみたい。

・ブリストル406
 

 涌井清春さんが主宰する「ブリストル研究所」を訪れたら、ちょうどブリストル406を動かすというので久しぶりに助手席に乗せてもらった。この406は、1960年にイギリスで製造された2ドア5人乗りサルーンで、BMW製6気筒エンジンを搭載している。ごく短距離の移動だったが、そのボディの仕立てや内装の造りなどに品質の高さが伺えた。
 

 このクルマは自動車評論家の故・川上 完さんが以前は所有していて、当時も何度か乗せてもらったことがあったので、こうして涌井さんが継承して快調に走っているのは、とても感慨深い。

プロフィール

Hirohisa Kaneko【金子 浩久】
 

モータリングライター。
クルマとクルマを取り巻く人々や出来ごとについての取材執筆を行なっている。
最新刊は『クラシックカー屋一代記』。

https://www.kaneko-hirohisa.com

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