『自動車亭日乗』No.18 2025年3月の印象に残った5台 金子浩久

趣味人コラム
2025.04.09
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・キャデラック リリック
 

 すでにアメリカやヨーロッパなどでは販売されているキャデラック初のEV(電気自動車)「リリック」。
 発表会で感じた特筆ポイントは2つ。一つは、次世代型ノイズキャンセリングシステムの採用。EVはエンジンがないので静かだが、ある程度のスピードを出すと風切り音とタイヤノイズが避けられない。モーター走行で静かであるが故に、それらが逆に目立ってしまって落胆させられたEVもある。キャデラックは、たしか20年以上も前のエンジン車の頃からノイズキャンセリングシステムの開発に積極的で、実車にも装備してきた。一日の長の成果がリリックでどのように発揮されているのか?

 2つ目はワンプライス販売。リリックはキャデラックディーラーから顧客に納車され、顧客はディーラーに価格として1100万円(税込)を支払う形式はこれまでと変わらない。しかし、ワンプライス制を採用し、値引きは行われない。1100万円はディーラーからそのままキャデラックジャパンに渡され、ディーラーは代わりに一定額のマージンを受け取る。キャデラックジャパンは、これを「エージェントモデル」と呼んでいる。
 

 すでにメルセデス-ベンツジャパンやボルボなどが彼らのEVで値引きなしのワンプライス販売を行なっているが、キャデラックジャパンの若松 格社長は「エージェントモデルは、それらとは違う」と力説していた。どのように違うのか、ディーラーと顧客のメリット、さらにはインポーターが導入したがる理由などを調べてみたくなった。

・デイムラー ダブルシックス
 

 昨年の3月に「10年10万kmストーリー」で記事にさせてもらったデイムラー ダブルシックス(1991年)の86歳女性オーナーさんから「ダブルシックスを手放したい。誰か、このクルマを好きで乗ってくれる人を知りませんか?」とLINEメッセージが入った。すぐに見付かって、譲渡手続きも手際良く進んだ。新旧オーナーによる引き渡し食事会に招かれ、会場まで僕が運転した。ダブルシックスのハンドルを握るのは32,33年ぶり。特に乗り心地とブレーキ、5.3リッターV型12気筒エンジンのパワーの出方などが現代のクルマと大いに異なっていて、クラシックカーそのものだった。楽しみとして乗るのは最高で、さらに日常的に乗れたら間違いなくカッコいい。

・フェラーリ 328GTS
 

 今月の「10年10万kmストーリー」は、29年9万7000km乗り続けられているフェラーリ328GTS(1988年)。フェラーリを30年近くも乗り続けるなんて、さぞや裕福なマニアさんなのだろうと想像してしまったが、まったく違っていた。
 

 都心部の商店に生まれ育ち、“クルマは贅沢で自分には必要なく縁もない”と寄せ付けず、興味も関心も抱いていなかった。偶然にも僕も近くのサラリーマン家庭に生まれ育ったので、その感覚がとても良くわかる。昔は、クルマはお金持ちか本当に必要な人しか持つものではなかったのだ。大学で履修した自動車工学の講座でオーナーさんの姿勢が180度転回した。どんなキッカケから328GTSを入手することになったのか。持ち続けている魅力はどこにあるのか。とても面白い取材になった。

・ボルボ XC90
 

 マイナーチェンジが施されたボルボの大型SUV「XC90」で埼玉県の嵐山小川町にある「分校カフェ」を往復した。

 試乗したXC90はPHEV(プラグインハイブリッド)版の「XC90 ウルトラ T8 AWD」で価格は1294万円。2.0リッター4気筒エンジンとモーターを搭載し、エンジンは発電しつつ状況によっては前輪も駆動する。EVモードでモーターだけでの走行距離は73kmと最新のPHEVと較べると短め。

 平坦なところではほぼモーターだけで走るので、とても静か。おまけにエアサスペンションによって路面からのショックをきれいに吸収しているので、乗り心地がとても快適だった。
 

 3列7人乗りシートも1脚ずつ前後にスライドできて背もたれも倒せる。造りもしっかりしているので、長距離走行でも疲れ知らずだろう。2列目中央席はクッションを畳み直すと座面が高くなり、4歳児以上をチャイルドシートなしでシートベルトを正しい位置で締めて着座させることができる。家族のための優れた機能がボルボらしい。

 GoogleOSを採用した音声認識による各部操作も正確に行われ、認識されなかった際の言い直しが巧みにフォローされてほぼ完璧だった。音声認識によるクルマへの利用はもっと広まっていくだろう。XC90はマイナーチェンジによって熟成され磨きが掛けられたが、価格の高さが多くの人にはネックとなっている。しかし、高額な理由を知ると納得できることも間違いない。

・ポルシェ マカン
 

 モデルチェンジしてEV化されたポルシェのSUV「マカン」はすでに日本でも発売されていて、多くのユーザーの元に納車されている。

 淡い紫とグレーが絶妙に合わさった「プロヴァンスカラー」というボディカラーのマカンを世界の各都市なりに表現することになり、その舞台に日本では東京タワーなどを背景にした夜の増上寺が選ばれた。和太鼓と書のパフォーマンスが日本らしさを表現していた。他の都市ではどのように表現されたかを、ぜひ見てみたい。

プロフィール

Hirohisa Kaneko【金子 浩久】
 

モータリングライター。
クルマとクルマを取り巻く人々や出来ごとについての取材執筆を行なっている。
最新刊は『クラシックカー屋一代記』。

https://www.kaneko-hirohisa.com

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